短冊

からす瓜　11月

木枯らしや　　
　　二つ仲よし
　　　　　　からす瓜
　
商売の失敗でまるはだかになった私の家は、
ふる里を離れ、熊野川を流れて新宮に泳ぎついた。
幸いにも小さなバラックの家を貸して下さる人が居て助けられたが、
又そこで、ささやかな馴れぬ商売を初め、
母には何度死んだほうがましだと泣かれたことか。
目の前が真暗になること再三再四だった。
とある木枯らしの吹く寒い日のこと、久しぶりにふる里に用が出来、
バスに揺られて山道を行く時、
杉の木立に真赤なからす瓜が2つ仲良く手をつないでいる。
寒風にさらされたからす瓜は、
しっかりと手をつないで生きようとしているではないか。
私は励まされた。
丁度、小学生と中学生の娘達がからす瓜の役目、
苦しい日々の私にいつも喜びを与えてくれた。
そして、まわりの人々によくして頂いた。
私の生涯忘れ得ぬ歴史の中の一コマである。